3月28日は、『名古屋フィルハーモニー交響楽団の音楽監督小泉和裕氏』の最後の名古屋公演での指揮を観るとができました。平日でしたが、監督最後の指揮姿を観たくてたまりませんでしたから、早く仕事を切り上げて名古屋に移動しました。
最後の締めに監督が選んだのは、クラシック音楽王道中の王道であるベートーヴェンの2曲の交響曲。音楽の欧州紀行と題されたシリーズ終着駅はドイツ!そして、29日には東京公演も同じ演目であるということで、名演となるのは間違いないだろうと期待を込めて観に行きました。ベートーヴェンの9つの交響曲は、すべて有名で、数多くの録音が残されていて、会場に来られているファンもほとんどの方が、そのメロディをわかっているのではないだろうかというくらいの曲です。ポピュラーナンバーを二つも並べて最後の勝負に出たという感じでしたね。交響曲第一番、同三番「英雄」。いい並びではないでしょうか。一番は、気軽に肩ひじ張らずに聴ける比較的陽気な雰囲気の漂う曲調であり、モーツァルトを思い起こさせる優雅さも備えている楽曲。それに対して、三番は、重厚長大で、コンサートのメインディッシュにふさわしい風格がある大傑作。いずれもが今から200年以上に作曲、初演されている曲であるから、良いものとして、「燦然とクラシック音楽史に輝ける名曲中の名曲」ということでしょう。ベートーヴェンの交響曲全4楽章はいずれも楽章ごとに味わいが違っているので、飽きがこないものです。強弱のうまい具合、スピードの速い遅いの差、同じメロディをうまく変化させ、演奏させる楽器を変えながら進行していくのが心地よいものですね。そこに不自然さがまるでないのですから。その構成力たるや、すごいと思います。ドイツ音楽の強みってその「構成力」「論理性」と言われるゆえんです。
そのようなベートーヴェンの音楽をさらに美味しく料理してくれるのが小泉シェフ。初めて小泉氏の指揮を観たのは今から10年ほど前。初めて聴いたグラズノフの交響曲が、あまりに聴きやすくて、指揮っぷりもかっこよくて、わかりやすくて、安心感のあるいい指揮者だと思ったのが初めでした。小泉氏はその後名フィルの音楽監督を7年間務めていただき、その間にも5回ほどは、演奏会を観に行っていますが、毎度小泉氏の指揮を観ていると、どのような音楽を紡ぎだそうとしているかが良く理解でき、その調理法も私の耳にはよく合って、ほっとさせてくれたり、きりりとまたはしゃきっとしたりを感じさせてくれるものでした。その日の第3番の第一楽章の霧ッと引き締まった緊張感のある演奏、贅肉の取れたという表現がいいのか、贅肉のとれたナポレオンが堂々と馬にまたがり進軍する様が目に浮かんでくるような演奏。そして、名フィル楽団員も万感の思いで、演奏されていたのでしょう、そろオーボエ奏者の第2楽章の悲しげな調べ、ホルン奏者の奏でる和声の美しさなど、随所に名フィルはとてもいいオーケストラになったのだというのを感じさせてくれました。やはり7年間の積み上げでしょうか、小泉氏と名フィルの息遣いのなんてよくあっていることか。最後ににこやかな柔和な表情をされながら、客席に礼をされる小泉監督を観て、「ありがとうございました!小泉監督」と心の中で叫びました。いつか小泉さんの指揮で歌えたらいいなあとか思いながら。