たまに映画を観に出かけます。この映画は、歌舞伎役者にまつわるストーリーだということ、長い映画ということだけの情報だけ入れて映画館に行きました。歌舞伎好きの私にとっては、歌舞伎のシーンがふんだんに盛り込んであるということだけで、非常に興味深いものでした。そして、映画のレビューの得点があまりに高いことにも関心がいきました。具体的には、レビューを見なかったのですが、どの人も5点満点の4点以上ばかりなんですよね。まあ、期待外れにはならないだろうなというだけ思って行ったんです。1日当たりの上映会数の多さは人気があることを示しているのだしと。
本編が3時間程度もあるという非常に長い映画ということで、その覚悟をしていったのですが、何が何が、息をつく暇も与えられないくらいで、つまらないという感じをもつこともなく、あっという間の3時間でした。いつもならば、せめてドリンクやポップコーンを買って入場するのが映画館であると思ったのですが、「国宝」については、ポップコーンを噛む音もさせたくないくらいによくできた映画でした。ドリンクなど買って飲んでいたら、絶対に途中にトイレに行きたくなってしまうだろうなあと。絶対に、トイレは、入場する前にすませて、スクリーンに見入るべきだと思います。
歌舞伎の美しさというと、セリフ、ストーリー、音、衣装、化粧、舞台など様々だと思うのですが、その歌舞伎自体も抜粋しながらでしたが、楽しめました。特に「曽根崎心中」は、実際に見たくなりました。歌舞伎の舞台を観客席から撮影するのではなく、舞台上からほとんど撮影されていたので、役者さんの動きが実にはっきりとわかるところもありましたし、歌舞伎の舞台裏にカメラが潜入してという感覚の部分もあり、このように歌舞伎の舞台が出来上がるというメイキングを見られる良さもあって非常に興味深いものでありました。
キャストさん、主役級二人が、吉沢亮さん、大河ドラマべらぼうでの好演も光る横浜流星さんの地でも美しい顔が、さらに映える女形の歌舞伎役者というのが良かったです。所作も、セリフも、本物の歌舞伎役者と間違うくらい、美しさの極致であったなあと。いえ、それよりも前に出てきた少年期の二人の子役にもあっぱれです。この二人の息の合った二人の女方も舞は見事で、美しく見ごたえがありました。
「国宝」の主題である、「血縁」をとるのか、「芸」をとるのかというところ、考えさせられましたね。吉沢演じる極道の家出身で歌舞伎の道に進んだ主人公と、横浜演じる歌舞伎一座の御曹司の出会い。この二人の仲よく演技するシーン、大げんかするシーン、美があれば、粗暴さもあるという緩急の妙。主人公の人生の浮き沈みと、それに絡み合う御曹司の人生。親(先代、師匠)が、後継を指名する際に、血をとるのかそれとも芸をとるのか、これって、事業承継にも似ていますね。御曹司は、そこまで出来が悪いわけでもなかったので、御曹司を後継にしてもという母親の叫びも、私の胸を突き刺してくるようでした。
そう、最初の長崎での外は雪の中での宴会シーンも非常に印象的で、引き込まれるものがありました。暴力団の抗争の末、主人公の父親が銃撃されてしまうと。その「血」を引き継いでいる少年期の主人公の話から始まる、この物語は、みどころたっぷりであり、情報量も多いので、リピーターも多いのではないでしょうか。すごい作品ですよ、これは。カンヌ映画祭で、スタンディングオベーションで喝采されたのは理解できます。再度、大きなスクリーンで観たいと思う作品でした。