名古屋フィルハーモニー交響楽団の7月3日金曜日の定期演奏会に行ってきました。
早くも1週間近くも経過しているのですが、本当に行ってよかった公演でした。
ベテラン指揮者小林研一郎さんの指揮を見るのはコロナの前以来になっていました。2018年、平成30年ですね。サントリーホールでチャイコフスキーのマンフレッド交響曲で指揮する姿を見て以来8年ぶりのことです。すなわち、令和となって初めてです。事前にネットで検索していると、10年前にも同じヴェルディのレクイエムを同じ顔触れ(名フィル+岡崎混声合唱団等)でやっていることが分かりました。小林氏のお得意の曲だということでしょう、そして炎のコバケンという異名を持つ小林氏が持っている「熱さ」が存分に発揮される曲であろうと想像されました。合唱、独唱付きという大きな編成で演奏され、全曲で90分という大曲、ぜひ聴こうとということで、早めにチケットを入手していました。そして分かりやすいことに1階11列11番という1並びの席を押さえられました。指揮者小林氏の動きも良く見ておきたかったというのもあって、前方寄りということで押さえた席でしたけれど、非常に出入りもしやすくて、奏者も全体的に見やすい席で良かったなあと思います。
この公演では、合唱が、2階席の通常はお客さんが座るシートに位置されていたのです。100名を超える合唱団を正面に見られる席ですね。まずは、合唱団が入場してきます。岡崎高校の合唱部、岡崎混声合唱団と続きましたが、高校生の若々しい「白のシャツ」に目を奪われます。すでに1階席は空席はありません。びっしりと席が埋まった中で、歌えるっていうのは気持ちが昂るものです。高校生のうちに、名古屋栄の立派なコンサートホールで演奏できる機会に恵まれるというのは羨ましいことです。さらに言うならば、世界的にも有名な老巨匠小林氏の指揮で、歌ったというのはいつまでも思い出に残るのではないでしょうか。
私も、大学生の当時、小松一彦氏という指揮者のタクトで歌ったことがあるのですが、まだ小松氏は若く「険しい表情で」、もっと子音を出してとか注意されたことを思い出すし、演奏会後に、「グリーの諸君、良い出来だったよ」みたいな言葉をかけられたことを覚えています。
さて、管弦楽団の奏者の入場が終わり、若いコンサートマスター森岡さんが入場されてチューニング、そしていよいよ指揮者とソロ4人を迎える時になりました。どんな様子で小林氏が入場するのかとかたずをのんで見守る観衆。小林氏が出てこられました。まずは、合唱団に起立するよう合図します。でも、そのご様子が、身振りいっぱいではないのです。やはり8年の歳月が流れて、小林氏もすっかりおじいちゃんになられたなあという印象を持ちました。指揮台への歩みも、ゆっくりしているし。そして、小林氏は、指揮の最中に「譜面」を見ないので、譜面台が指揮台の前には置かれていないのが通常であるのに。今日は、譜面台が置かれ、その譜面台の上には、楽譜の表紙が見えます。あれ?と思いました。指揮台に上がるときも、軽快さはもうありません。譜面台を手の支えに使っている印象なのです。そんな86歳の巨匠が、目の前で指揮をされる。そんな緊張を感じるものでした。
長年、感動的な「歌心」あふれる指揮をされてきた小林氏、時に唸りながら、音楽を紡いでいった炎のコバケンともいわれた小林氏は、そこにはいませんでした。もちろん、それを期待する自分はいたのですが、今まで多くの感動をいただいた小林氏に、感謝の思いを持ちつつ、愛おしんでレクイエムを聴こうと決めました。
曲に入ると、合唱団と4人のソロの見事なこと、これに圧倒されました。岡崎の合唱は、近藤先生というカリスマ的指導者の下、よく音色がそろっていて美しさにあふれています。フォルテでも崩れず、ピアニッシモでは背筋を伸ばさせるような音色です。濁りのない「透明度」がこの合唱団の持ち味なのだと思わされます。そして、4人のソロは、声量は十分に大きく、ダイナミックで声質も美しさにあふれていました。とりわけ、テノールの笛田氏の抜けるような高音、心地よい声質は、ぜひ今度はテノールリサイタルで聴きに行きたいと思わされるほどでした。
それにしても、合唱付きの曲は、生で聴くに限ります。生で聴いてこそ、その感動を直に味わうことができます。ヴェルディのレクイエムは、声楽がかなりの部分を占めています。小林氏は、何度も合唱団に「いいよ!そうだ。その調子だ」という感じで、オッケーサインを出したり、観客席に顔を見せつつ、観客席の奥の方まで声を飛ばして!というサインを送っているのは、相変わらず変わっていないなあとは思わされたし、金管楽器を派手に鳴らす感じはいつものコバケンだなあとか思いつつ聴いていました。
そして、終演後、いつものように演奏者にねぎらう声かけをされているのを見ると本当に、一音楽家として優れているだけでなく、人間としても尊敬できる人だと思わされます。今日は、炎のコバケンというより、冬の囲炉裏端の炎でみんなをあたためている老巨匠小林研一郎の姿を見せられた感じがしました。